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禁断の果実に口づけを
第19章 サヨナラの訳

 今、冷静に判断を下せる柿沼には分からないだろう。
あの時、どんな状態だったかなんて…
柿沼の想像以上の事が此処で繰り広げられていたのだ。
例え、保険の内容を頑なに明かさなくても、風間優美子は倉橋朋子に不倫現場を押さえた写真を見せ、揺るぎない立場を主張しただろう。
それこそ、横領を付け加えて陥れたかもしれない。

 普通に考えれば、一部上場企業の社長夫人が夫が一千万円くすねたくらいであんなに騒ぎ立てる事なのだろうか?
いや、騒ぎ立てる理由が欲しかったんだ。
 
 例えそうであっても、不倫に逆上した妻が敵を討ちたい気持ちも分かる。
世間的にも、不倫はする側よりされる側に同情的だ。
それも間違ってない。
ただ、風間優美子のやり方は利口なやり方とは言い難い。
自分の夫の事をあそこまであからさまに出来ないだろう。
普通なら世間体を気にして我慢してしまう事ではないか…?

 だが………
世間体なんてどうでもいいくらい嫌になれば、自分を優位に立たせて別れる事を考えるであろう。
ならば、倉橋朋子はその為にまんまと利用されたのかもしれない。
風間優美子の本当の狙いがそれであるなら。
洋子は自分なりの仮説を立てていた。

 一方の柿沼は、事の成り行きを正直に風間健に報告する連絡を入れた。
そして、支社長にも騒ぎが大きくなる前に事前に報告もした。
あくまでも自分の留守中に起こった事として、自分の立場が危うくならぬ様、言葉を慎重に選びながら。

 そばで聞いていた洋子は、事が大きくなってしまったのは、自分と朋子の落ち度なのだと言われている様な気がしてイライラした。
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