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優しい愛には棘がある
第1章 ご注文はイケナイ遊戯



「うがー、むしゃくしゃする。カツアゲしてぇっ」

「行くか?狙ったやつが金欠だったらカツアゲになんねぇからよぉ、五百円で良いじゃーん」

「おおっ、お前頭良いな。五百円ならサツに捕まんねぇよ、同意!同意!」

「…………」


 心咲は、ショルダーバッグから長財布を引っ張り出す。


 千円札が数枚と、五百円玉が──…ない。


 心咲は携帯電話で現在時刻を確かめる。


 午後九時半を過ぎていた。

 明日は早番だ。あの女達がいなくなるまで待っていたなら、就寝時間が遅くなる。



 心咲は腹を決めた。


「…──!!」


 ノブを回して扉を開くや、自分の目を疑った。


 従業員用出入り口に直結した駐車場にたむろしていたのは、声から想像していたより遥かに玲瓏な顔触れだった。


 上司に金髪を咎められたらしい女は、確かに月の色を刷いたごとくの色の髪をしていた。さらさらの、腰まで届くロングへアだ。化粧は薄い。鮮やかな赤いスーツが、夜闇に輝く白肌を引き立てていた。

 カップラーメンを啜っていたようだった女は、なるほど、その手許にカップうどん。赤毛のベリーショートヘアに長身という、さばかりいなせな風采だ。鍛え抜かれた肉体は、それでいてたおやかな感じもある。薄いシャツの中で盛り上がったバストから太ももにかけての線が、あまりに優婉だからか。

 そして彼女らの他に、ベージュの髪をシニヨンに結って眼鏡を着用している知的な美人と、イエローに近いオレンジのボブの髪をした、ジャージの女の姿もあった。


「あ……」


 心咲は駐車場の半分ほどの距離を歩いたところで、女達の注目が自分に向いているのに気が付いた。


「おい、ちょっとツラ貸せよ」


 金髪の女が見事な巻き舌で心咲に絡んだ。



 両替して、五百円玉を準備しておけば良かった。





 後悔しても、遅かった。
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