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優しい愛には棘がある
第3章 Fairy land

* * * * * * *

 早辺真宵(はやべまよい)は、黄昏時の植物園を散歩していた。


 このところ、大学の講義を終えるとほぼ毎日、こうして自然に親しめる施設を訪う。


 両親と顔を合わせる時間をなるべく減らしたいからかも知れない。


 ともすれば道徳を差し置いてまで世間体を重んじる母と、生きた化石のごとく厳格な父──…彼らは自営で生計を立てている。

 馴染めない。
 馴染めない彼らと真宵は家にいればのべつ顔を合わせ、窮屈な心地に息を詰まらせねばならなかった。



 ベビードール風のワンピースの裾が、風を受けて軽らかにたゆたう。
 その度に、ピンクからサックスのグラデーションの羽根を広げた蝶が舞う、珍しい花形のジェリービーンズがスワロフスキーの鎖に編み込まれたプリントが、淡いピンク色のシフォンの中で揺れる。



 真宵は黒いパラソルの柄をもてあそびながら、中央広場の歩道を外れて小道に曲がった。



 木々を彩る新緑が、透かし編みの天幕を張ったように、頭上の空を覆っていた。


 舗装された歩道を奥へ、奥へと進んでいく。


 やがて人の姿を見かけなくなった。

 聞こえるのは虫や鳥の鳴き声だけだ。草木の葉のすれる音、風の淡い音色が時折とけ込む。


 途中、セメントの道が砂利道に替わった。


 しとしと、さくさく、歩いていく。

 足許が、更に変わった。

 乾いた土や、腐って変質した植物が、でこぼこの獣道を形成していた。
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