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星の島で恋をした【完結】
第19章 《十九》
     *

 セルマは今まで感じたことがないくらいひどい頭痛を覚えて、ふ……と目が覚めた。だけどあまりの痛さに目を開けることが難しかった。

 どうしてこんなにも頭が痛いのだろう。

 しばらく考えて、それからセルマは思い出し、ぎくりと身体が強ばった。



 ──カティヤ王女に戻ってくるようにといわれて、セルマは後ろ髪を引かれつつ、星の島を後にした。陸地に着き、迎えの馬車に乗り込んだ。

 馬車は城への道を順調に進んでいたのだが、城門が見え始める頃、急に止まった。

 何事かと驚いて窓から外をのぞき見ると、真っ黒な馬車が道を塞いでいた。黒い馬車というだけで嫌な予感がしたのに、馬車の扉には浮き彫りの黒い蔦があり、セルマはすぐにそれが公爵家のものだと気がついて、顔が強ばった。

 セルマが受けていた呪いは公爵家の手によってもたらされたものだった。その公爵家の馬車がセルマの帰り道を塞いでいる。

 ──アステリ持ちを手に入れればなんでも願いが叶う。

 リクハルドに言われた言葉をふと思い出した。

 公爵家はセルマがアステリ持ちだと気がついて連れ去ろうとしているのだろうか。

 それは嫌だ。

 セルマの居場所はカティヤ王女の側なのに。

 そんなことを思っていたら、どこから現れたのか、武装した人たちがセルマの乗っている馬車を取り囲んだ。

 ざっと見て十人はいるだろう。一人や二人ならばセルマの腕でもどうにか切り抜けられただろうが、この人数はさすがに無理だ。

 それでもセルマはカティヤ王女の元に帰らなければならない。

 どうすればよいのだろうと思っていると、馬車の扉が開き、中からだれかが降りてきた。王宮で見かけたことがあるが、一瞬、それがだれだったかセルマはとっさに思い出せなかった。

 少し長めの黒髪は香油で隙なくぴっちりと整えられていたが、突風が吹き、男に襲いかかった。渦巻くようにして風が男を乱していった。羽織っていた黒いマントがもみくちゃにされ、その中まで見えたが、服もすべて黒だった。

 それを見て、セルマは息を潜めた。

 黒い服を着用することが許されているのは、公爵家のみ。

 セルマは頭のどこかで中に乗っているのは代理であると思っていた。
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