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星の島で恋をした【完結】
第15章 《十五》
 リクハルドの横には数本の水の渦が立ち上がっていた。それだけでもすごいと思うのに、さらになにか別の詠唱を始めていた。



「【エカ マカス オイェ ザック】」


 セルマは魔術に明るくないが、洩れ聞こえてくる話によると、同時に別々の魔術を扱うのはかなりの高等技術ということだった。

 リクハルドの詠唱が終わると同時に周りに渦巻いていた水の渦が空へと舞い上がり、スキアに向けて牙を剥いた。



「セルマ、今のうちにいけ」


 背後から掛けられた声にセルマはうなずき、スキアへと駆け寄った。

 スキアはリクハルドが放った水の渦に注意が向かっていた。

 だけど未だに素手のセルマはスキアに近寄りながらどうすればいいのか迷っていた。

 訓練の際、徒手空拳でも戦えるように鍛えてはいるが、それでも相手は未知の獣。素手で殴り掛かって敵う相手だとは思えない。

 リクハルドはスキアに近寄っていくセルマを見て、なにかに迷っていることに気がついたようだった。



「セルマ、今、自分が欲している物を心に思い描け!」


 リクハルドの声を聞き、セルマはようやくどうすればこの手に武器を持つことができるのか漠然とだが分かった。



 セルマが望むものを虹の星は与えてくれる。

 だから星を手に入れた者は力を手に入れられるのだ。

 この力さえあれば、なんだってできる。

 ぞくりとセルマの背が震えたけれど、今は目の前のスキアを倒さなければならない。



 リクハルドが唱えた水の渦は宙で合わさると大きな渦になり、さらに風の魔術が後押しをして威力が上がっている。それは一直線にスキアへ目がけて落ちていった。スキアは空に向かって咆哮して、口を大きく開いてきらきらと輝くなにかを吐き出した。



「な……に、あれ」


 突然のことにセルマは足を止め、スキアを見た。

 リクハルドの放った渦はスキアが吐き出しているなにかと拮抗していた。しかし渦が徐々に小さくなっていっているような気がする。



「【エカ ムズ オ ユジム】」


 小さくだけど、リクハルドの詠唱が聞こえた。

 そうだ、リクハルドは戦っている。セルマがここで足を止めていてはならない。

 セルマは目を閉じるとぐっと右手を握りしめて、自分の手に剣があることを想像した。



 そして次の瞬間。
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