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飼育✻販売のお仕事
第8章 少女給餌〜りつき〜

* * * * * * *

 スマートフォンのアラーム音は味気ない。


 今朝もりつきは機械的な夾雑音にささめかれると、煎餅の質感の寝具の中で、二、三度の寝返りを打った。

 薄闇に見える襖の隙間に、白い明かりが滲んでいた。


「……うん。──…ん、やだなぁ、希実子だって。…………はは。まぁな、うん……」


 世帯主はとっくに起き抜けたあとらしい。

 掠れたアルトが親しげに呼ぶ、希実子という名の電話相手は、りつきも良く知る人物だ。一年と三ヶ月前まで同じ大学の同級だった。


「…………」

「──……。仕方ねぇよ。ありがとな。っつか、あんま喋ってるとりん起こしちまう。……そっか。うっわー、希実子厳しい」

 伊澄の豪快な笑い声が、朝の気温を僅かに上げた。

 今朝も早番だ。大方、季実子は伊澄に、りつきもそろそろ起きるべきだと提言したのだ。

「はぁ、どっかに良い女いねぇかな。……合コン?無理無理、オレ、ああいうとこだと日陰だし」

「…………」

「気にしてねぇよ。……安居さんは、そりゃ、タイプだったけど。結局男じゃん?あ、オレの場合、好きになったやつが全員犯人!とかよりマシじゃねぇ?好きになったやつが全員ノンケって。……あれだよ、昔ドラマであったじゃん」


「──……」


 十分に引きずっているではないか。


 伊澄の虚勢を、りつきは指摘したくなった。








「りん、起きてる?」

 伊澄は電話を切っていた。居候にも礼節を重んじる友人は、襖一枚開かない。

「起きてるー」

「まだ寝転んでるだろ」

「ん……」

「遅刻しても置いてくぞ。オレが飯作るまでにケーキ頭を完成しておけ」

「──……」


 昨日、地下二階の男がりつきを揶揄した言葉だ。

 帰り道、伊澄にぼやくと、ツボに嵌まったようだった。
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