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飼育✻販売のお仕事
第11章 我が家の執事


 週明け、りつきは早番の出勤と同じ時間帯に起き抜けて、いつになく念入りにめかし込んだ。

 パステルピンクのロングヘアは、定着したツインテールだ。総レースのトップスにリボン柄のベビードールを重ねて、ボトムはチュチュとぬいぐるみ柄のレギンス、化粧はいつものカラーメイクに加えて、目許に三日月を描き込んだ。


 バッグの支度が整う頃、トーストの匂いがきらびやかな談笑を連れて、りつきの個室に流れ込んだ。


「伊澄ちゃんおはよー。王子来てくれたんだ」

「おはよ。今日最強じゃん」

「おはよ、りんりん。可愛いよ」

「久し振りのデートだもん。王子も気合入ってるじゃない」


 カップを傾けていた浩二の隣に落ち着くと、伊澄が紅茶を注いでくれた。


 ワンプレートの朝食に、熱々の紅茶──…至れり尽くせりの伊澄の仕事は、りつきに、屋敷にいた頃を思い起こさせる。


「店長も……デートとか、するのかな」

「店長って、「ふぁみりあ」の?」

「うん」


 サラダを口に運びながら、ふとあのあえかな雇い主が脳裏を掠めた。


 見栄えのしないエプロン姿の時でさえ、遠目からでもまばゆいオーラが目で分かる。出るところは出て締まるところは締まった肉体美も補翼して、里子は異性愛者のりつきの目からしても、魅力に溢れる。

 あの里子がデートに選ぶ人間は、どんな人物か。どんな風に微笑んで、りつきの知らないどんな表情を見せるのか。…………


「店長はそういうの興味なさそー」

「そうかな」

「生き物で生計立ててるくらいだぜ。その辺の感覚、麻痺しててもおかしくないっつーか」

「医者は公私別個だっていうよ。りんりんの言う通りそんなにセクシーな店長なら、男には不自由してなさそうだな」

「あー、その前に、多分ビアンだし」

「じゃ、女性に不自由してなさそう」


 伊澄と浩二の議論を見守りながら、りつきはトーストをちぎり取る。

 小麦とバターのコントラストを咀嚼していると、壁の向こうが騒々しくなった。
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