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はじめの一歩
第1章 Butterfly
健康診断で、父の肝臓に影が見つかった。

まだ小さいから手術で取り除けるということだったが、本人も気にはしていたし、母は大層取り乱していた。

いずれ会社を継ぐことは決まっていたことだが、まだ父は58で、僕自身もう少し猶予があるものと思っていた。

早く身を固めろ、という周囲の圧力が日に日に重くなる。
もう、猶予がない。

でも、彼女以外の女性と結婚する、という選択肢は最終手段にしたかった。
まだ僕は、彼女に気持ちを伝えていないから。

チャンスは一度。

それで振られたら、見合いでも何でも受け入れよう。

相手が彼女でないのなら、もう誰でもいい。

少々卑怯な搦め手ではあるが、彼女の家族を、というか…彼女の家族を想う気持ちを利用しよう、と思った。

バレンタインデーに、彼女を含むホステスさんから幾つかチョコレートを貰う。

お仕着せの、皆に同じものを配っているのだろう、と思われるウィスキーボンボン。

誕生日ですら新しいボトルを開けるくらいで、プレゼントをした事のない男が、いきなり何かを贈るのもおかしな話だったが、ホワイトデーのお返しくらいなら受け取って貰えるだろう。

僕は、ホワイトデーを、一度きりの賭けにでるチャンスと定めた。
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