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他人の妻、親友の夫
第4章 未達の悦び
千田秋彦と理依の出逢いは大学構内である。
看護学生に現場の空気と看護を目指す者への心得を説明するセミナーに講師として呼ばれた理依が構内で道に迷い、そこで助けたのが秋彦だった。
世間への説明はそういうことになっている。

学会に向けた論文を書くため、学生たちが行ったデータを秋彦は纏めていた。
年々学生の質が落ちてきているというのは大学の教員ほぼ全員の共通の思いだ。

それは彼も感じている。
しかし未熟な者を導くのが教育と考える秋彦は、その現象をただ嘆くのではなく自分の使命とも考えていた。

「ん?」

学生のデータに明らかな間違いがあり、キーボードを打つ手が止まる。
実験者は十河希美(そごうのぞみ)であった。彼が期待を寄せる修士課程一年の生徒だ。

まだまだ未熟なところは多いものの研究にかける情熱は高く、いずれは博士課程を目指して欲しいと秋彦は願っていた。
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