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口琴
第2章 少年
少年の横顔は夏の夕陽に映え、真剣でとても凛々しいと、少女は思った。

それに、どことなく誰かに似ている…。

少女は、少年から少し離れた後方に座り、最後までうっとりと聴き入っていた。

静かに、曲が終わる…。

素晴らしかった。

少女の心に立ち込めた暗雲の隙間から、陽の光が射し込んだような気がした。

知らぬ間に涙が零れていた。

「ブラボー!」

パチパチパチパチ!!

矢庭に響く拍手と喝采に驚き、振り向く少年の瞳に映ったのは、一人の美しい異国の少女。

翡翠色の瞳…薔薇色の頬…艶やかな黒髪…見たこともない美しさだった。

髪を風に靡かせて、優しい表情で自分を見つめている。

外国人…?

様々な驚きと混乱が少年を動揺させたが、ハッと我に返ると、恥ずかしさでつい、声を荒げてしまった。

「勝手に聴いてんじゃねえ!拍手なんか…。馬鹿にしてんだろ!あっち行け!」

「ご…ごめんなさい…。とっても上手で素敵だったから…。私…馬鹿になんかしてない…。でも…ごめんなさい…」

日本語…?

「は?上手?お前、ハーモニカ聴いたことねぇの?こんなの上手でも何でもねぇよ!」

「上手だよ!素敵だったよ!」

「……!」

きっぱりとした言葉と、真っ直ぐに自分を見つめる深い緑に、少年は言葉を失い、耳が赤く染まる。

「と…とにかく、人に聴かせられるもんじゃねぇの!早く帰んな!外人!」

「私、"外人"って名前じゃないよ?私の名前は『佐山ジュリアート蕾』小学四年生だよ?よろしくね?
お兄ちゃんは?名前、教えて?中学生?高校生?」

「…何で教えなきゃなんねぇんだよ?…そんなこと…」

「私は教えたよ?」

「聞いてねぇし。お前が、勝手にペラペラ喋っただけじゃねぇか」

「"お前"じゃなくて、蕾。つ、ぼ、み!」

「どっちでもいいよ!帰んないなら、俺が帰る。じゃァな!」

「明日も来る?」

「さぁな」

「来て!ね?また聴きたい!約束だよ?」

素直な瞳で、真っ直ぐに少年を見つめる少女。

少年は耳を真っ赤にして、無言で自転車に跨がると、突風の如く夕陽に向かって走り去った。

思いがけない束の間の楽しい時間…。

時は、否応なく少女を現実へと引き戻す。

帰りたくない…。

夏の黄昏は、家路へと向かう少女に悲しい影法師を落とした。

助けて…助けて…
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