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口琴
第3章 鬼ヶ島の舘
十歳の少女に正論を突き付けられ、一瞬怯む素振りを見せた中條だが、すぐに居直る。

「本当にお利口さんだねぇ、蕾ちゃんは…。そうだね、おじちゃんもパパも悪い人だが、タイホされちゃうのはおじちゃん達だけじゃない…。君のママも同じ罪でタイホされちゃうんだよ?ママも君を売った大人の一人だからね?」

「ママは違うもん!ママは私を助けようとしてくれたもん!」

「ハハハッ!そんなこと警察には通用しないさ。そうなれば、君や妹はどうなるんだろうね?このまま、おじちゃんの言うことを聞いていれば、ママも妹の梓ちゃんも助かるんだ。お金にも困らない…幸せに暮らせるって訳だよ。どうだい?ママや妹を助けたくはないかな?」

「あずちゃん…。ダメ!ママとあずちゃんが悲しくなるのはダメ!」

「そうだよね?ダメだよ。みんなを幸せにしてあげなくちゃ…。蕾ちゃんさえおじちゃんの言うことを聞いていれば、みんなが幸せになれる。簡単な答えだよ…。賢い蕾ちゃんなら、それくらい当然分かるよね?」

「…………」

「梓」(あずさ)と言うのは、継父である敬介と、母、梨絵の間に生まれた子どもで、四歳になる妹だ。

夫を喪い、ウィーンから帰国した梨絵は、幼い蕾を育てる為に小さな音楽教室を開き、細々と生計を立てていた。そんな梨絵に一目惚れした敬介は、梨絵に執拗に迫り、無理矢理に梨絵を妊娠させて結婚を迫ったのだ。

妹の梓は父親に似ず、素直で蕾にもなついていて、蕾は梓をとても可愛がっていた。

母と梓にだけは、辛い思いをさせる訳にはいかない。

蕾にはもう選択肢はないと思った…。

非の打ち所の多々ある話だが、賢いと言っても所詮は子ども。まんまと中條に丸め込まれ、幼い蕾はその小さな躰を犠牲にする覚悟を決めた…。

「いい子だ…蕾ちゃん…。賢くて優しい蕾ちゃん…。おじちゃんが、いっぱいご褒美をあげようね…。さぁ…」

北川が、蕾のロープを解く。

「お坊っちゃま、離れに用意が整っております…」

北川は深々とお辞儀をすると、ドアを開けて誘導する。

「来るんだ!」

中條は乱暴に蕾の腕を掴むと、足がもつれそうになる蕾を引き摺るようにして部屋を出た。


向かった先は、淫らな秘事の巣穴…。


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