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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第1章 第一話―其の壱―
―其の壱―

―また、あの男が来ている。
 お彩は首を心もちねじ曲げるような姿勢で、そっと後方を盗み見た。身体は動かさず、あくまでも相手に気付かれぬように最大の注意を払う。その視線の先を辿れば、一人の男がいた。「花がすみ」は小さな一膳飯屋である。小さな机が四つばかり、狭い店内に置かれていて、腰掛け代わりの空樽がそれぞれの机の回りに無造作に配置されている。要するに名前だけはたいそうだけれど、どこにでもあるような飯屋であった。亭主の喜六郎は今でこそ飯屋の主だが、若い頃は板前を目指していて、上方で本格的な修業をしたこともあるとかで、料理の腕はなかなかだ。
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