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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第31章 第十二話 【花見月の別れ】 其の弐
 商売物の魚をその飼い猫に食われてしまうこともしょっちゅうであるが、何しろ、女よりも猫が好きという変わり者だけに、猫の悪戯も笑って見ているだけという有様だ。
 それにつけても、お彩は、伊勢次のことを懐かしく思い出さずにはおれなかった。お彩が京屋を飛び出てきたばかりの頃、塞いでいたお彩のために伊勢次はよく磯八のところの愛猫の話を面白おかしく話してくれたものだった。お彩の手料理を食べながら、わざと大仰な身振り手振りを交えて話す伊勢次は、少しでも気落ちしているお彩を慰めようとしてくれていたのだ。
 本当に心の優しい男だった。伊勢次と過ごしたわずかな日々は、京屋で良人市兵衛と過ごしたよりは、よほど夫婦らしい心温まるひとときであったといえよう。
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