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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第5章 第二話・其の弐
 というのも実は、ただでさえ我がままな小巻が懐妊後は尚更手が付けられなくなった。亭主の偉平衛は完全に尻に敷かれており、小巻に文句一つ言えない。流石にこの頃は偉平衛も持て余し気味で、前々から姑―つまり偉平衛の母とは折り合いが悪かったこともあって、産み月にはまだ少々間があったが、小巻を里に帰したのである。
 全く小巻の人使いの容赦のなさと礼儀をわきまえぬのは常軌を逸しており、腹立たしい限りではあった。が、五十に手が届こうかという喜六郎に表では娘をはばかるあまり、陰で両手を合わせて〝堪忍してくれ、済まねえな、あんなどうしようもねえ我がまま娘で〟と頭を下げられれば、人の好いお彩はもう何も言えなくなる。
 喜六郎は奉公先の主人としては申し分のない人柄で、お彩のことも我が娘のように可愛がってくれる。ゆえに、いくら小巻が手の付けられぬ我がまま娘であったとしても、父の喜六郎をあからさまに責めたりはできないのであった。
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