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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第34章 第十三話 【花待ち月の再会】 其の参 
 市兵衛は、背後の河津屋と男たちのやりとりなぞ端から頓着しておらぬようであった。
 お彩の肩を抱くようにして、さっさと後にする。
「そうそう、ご新造、気が変わったら、いつでも私の許に来たら良い。何不自由のない暮らしも夜毎の法楽も保証してあげよう」
 仁左衛門は付け足すことも忘れなかった。廊下に面した障子戸を開けた市兵衛の表情には何の変化もなかった。
 お彩の後ろで市兵衛がピシャリと音を立てて障子を閉めた。
 庭の桜の花びらが風もないのに、ひらひらと舞っているのがどこか遠い世界のことのように思え、お彩はぼんやりと見つめていた。
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