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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第35章 第十四話 【雪待ち月の祈り】
 問うのに、喜六郎は肩をすくめた。
「女房はもう十五年近くも昔に亡くなっちまった。一人娘は日本橋の仏具屋に嫁に出したよ」
「そうですか。色々と大変なことがあらはったんですなあ」
 安五郎はどう言って良いのか、返す言葉もないようだ。
「うちの店はご覧のとおり、一膳飯屋だぜ。【三隅】にいたような板前の働き場所としては、ちと役不足じゃねえのかい」
「いや、そんなことはありませんよ。今だから言いますが、喜六郎さんは昔から私の憧れでした。あんな風にいっぱしの板前になりてえと、いつも目標にしてたんですよ」
 安五郎の眼を見れば、その場限りの追従や嘘だけで言っているのではないことは判る。
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