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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第37章 第十四話 【雪待ち月の祈り】 其の参
 いくら長屋がここから近いとはいえ、幼子を連れての出勤は毎日ともなれば容易くはない。喜六郎は幾度、住み込みで働いてはどうかと言おうとしたのだけれど、言い出せないでいた。むろん、五十を回った喜六郎と二十歳そこそこのお彩の間に、何事も起ころうはずはなかったが、世間様はそうそう甘くはない。男と女が二人だけで一つ屋根の下に暮らしていれば、二人の仲をとやかく言う輩もいるだろう。
 お彩が元は京屋のご新造であったことが万が一、露見すれば、お彩は今また、良人を裏切り情人(いろ)と駆け落ちした淫婦―、その上に更に汚名を着ることになる。
「済まねえな。まだ片付けが残ってるところを呼び立てたりしちまって」
 喜六郎が言うと、お彩は首を振った。
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