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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第6章 其の参
―心に自分だけの花を咲かせるんだよ。
 ありし日の母もまた、この桜を眺めたに違いない。母はこの花を見、一体何を考えていたのだろう。
 お彩の眼に知らず涙が溢れていた。父とは仲直りすれば、話し合うことができる。判り合えることができる。でも、この世の人ではない母と直接に言葉を交わすことは二度と叶わないのだ。誰も見る者とておらぬのに、自分なりの花を精一杯咲かせ続ける桜は、「心の花」を彷彿とさせた。
 この三日間、お彩は鬱々とした想いに囚われていた。
 あれから喜六郎は売上金が盗まれた件については何も触れない。小巻の態度は以前にもまして居丈高になったが、どこかお彩を避けているような風もあった。いっそのこと、喜六郎に暇(いとま)を貰い、「花がすみ」を止めてしまおうか―そんな考えすら、頭に浮かぶ。
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