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第41章 第十五話　【静かなる月】　其の参

　あれほど世間を騒がせて迎えた女房ともうまくいっていないといわれ、女房は湯治と称して家を出て別居状態、その上更にどこに囲ったかもしれぬ妾に生ませた庶子を引き取るとは、と、古参の奉公人や頭の固い縁者は市兵衛の独断と専横ぶりに眉をひそめた。
　むろん、京屋の奉公人は、お彩が行方をくらまし、あまつさえ他の男と駆け落ちしたことを知ってはいるが、大番頭佐平や手代頭の泰助を除けば、流石にお美杷の母親がお彩であることを知る者は誰一人としていない。ただ、お彩の身の回りの世話をしていた上女中のおみよだけは、お美杷の出生について薄々感じるものはあったのだが、そのことを口外するほど愚かではない。