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第42章 第十五話　【静かなる月】　其の四

　おしがもかつては、この「三國屋」で長年女郎奉公し、客の相手をしなくなってからは、太夫（花魁）の世話・後見役を務める番頭新造を経て、遣り手となったという経緯がある。
　おしがもまた、他の廓の遣り手と比べれば、情けはある方であったけれど、甘い顔をすれば、若い遊女たちに対して示しがつかず統制が取れなくなってしまう。結局、女たちの気が緩んで、足抜けという仕儀にでもなれば、泣くのは女ということになる。
　足抜けは吉原の中でも最も大罪であり、脱走して捕らえられた遊女はさんざん折檻された上、羅生門河岸と呼ばれる場末の小さな切見世に落とされるという酷い運命が待ち受けている。