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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第42章 第十五話 【静かなる月】 其の四
―ここ(吉原)に来た女には皆、似たり寄ったりの相応の事情ってえものがある。あたしのように飲んだくれの亭主に売り飛ばされちまった女も―。
 たった今、耳にしたばかりのおしがの台詞が耳奧でこだました。
 おしがはもう四十は過ぎているはずだ。吉原の水にどっぷりと頭まで浸かって幾星霜、様々なことを見、聞き、そして体験してきたに相違ない。所詮、お彩のようにほんのいっとき、苦界の水に浸かった人間には計り知れないものを内に抱えているのだろう。
 だからこそ、吉原に売られてきながら、ろくに廓内のことを知ることもなく去ってゆくお彩に、無意識の中に苛立ちを憶えるのかもしれない。
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