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第43章 第十六話　【睡蓮】　壱

　むろん、そのときにお彩が身ごもっていた赤子が伊勢次の種だという話までは信じはしなかったが―。お彩は、良人がありながら他の男と深い仲になれるような女ではない。もし、本当に好きな男が現れれば、潔く市兵衛の許を去り、その男を選ぶだろう。二股をかけるような器用な生き方はできない、そういう女だ。市兵衛には、お彩の腹の子が自分の子とだという確信めいた予感があった。
　伊勢次が入水して果てたのは、伊勢次と夫婦(めおと)同然となりながらも、お彩が依然として市兵衛に惚れていたことが原因だったのだという。それならば、今からでもお美杷と親子三人でやり直そうと言っても、お彩は哀しげに微笑むだけであった。