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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第43章 第十六話 【睡蓮】 壱
 そんな市兵衛についてゆけないのだと、お彩は言った。たとえ市兵衛にどれほど惚れていようと、自分には市兵衛の心の闇も孤独も癒やしてあげられない。だから、最早、市兵衛の傍にいても、何の意味もないのだと。
 結局、若菜太夫に関しては、束の間の心の安らぎを得るためだけに利用したことになる。女の真心を知りながら、最後までその想いに応えてはやれなかった市兵衛であった。
せめてもの慰めは、若菜太夫を身請けした男が実直な情のある人物だったということだ。
 越後屋政次郎という四十そこそこの縮商人で、郷里(くに)に大店を構えているという。初登楼したその日から若菜太夫にぞっこんで、太夫はその正式な後添いとして迎えられることになったのだ。
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