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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第7章 第三話 【盈月~満ちてゆく月~】 其の壱
 父親として娘の心さえ理解してやれなかった自分の愚かさをただただ憎んだ。現実には、お彩が家を出たのには別の事情があったのだが、そんなことは知る由もない伊八であった。
「伊八さん、どうかしたのかえ」
 彦七が問うのに、伊八は小さく首を振った。
「いや、誰か表に人がいたような気配がしてね。どうやら、俺の気のせいだったみてえだ」
 伊八は努めて何げない風で応えた。
 この上、彦七がお彩に義理の伯父の名乗りなぞ上げては、たまったものではない。それから四半刻後、彦七はお彩には逢えなかったことを残念がりながら甚平店を辞していった。むろん、伊八がお彩には絶対に逢わないで欲しいと彦七に念を押したのは言うまでもない。
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