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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第8章 第三話 【盈月~満ちてゆく月~】 其の弐 
「とにかく汗を拭きな」
 お彩は頷くと、伊勢次のよこした手拭いを受け取った。あの嫌な夢のせいで顔だけでなく、身体中汗まみれになっている。薄い寝衣が背中にぺっとりと張りついていて、何とも不快であった。しかし、伊勢次の前で着替えるわけにもゆかない。
 お彩はゆっくりと身を起こすと、ありがたく伊勢次の差し出した手拭いで顔中に浮いた玉の汗を拭った。
「よほどの怖い夢だったんだろうなあ。お彩ちゃん、うわ言でずっと親父さんを呼んでたぜ」
 伊勢次はそんなお彩を見つめてポツリと呟いた。
「私がおとつつぁんを呼んでた?」
 お彩は茫然とした。だが、言われてみれば、確かに夢の中で自分は父を呼んだような気がする。
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