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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第1章 第一話―其の壱―
「だから―、その」
 伊勢次は言いかけて、まるで水から陸(おか)に上がったばかりの犬のようにぶるっと首を振った。
「くそう、いいや」
 一人で納得している伊勢次を、お彩は眼を丸くして見つめている。伊勢次を男として意識したことは正直なかったけれど、一緒にいて安らげる相手ではあった。もっとも、その安心感は伊勢次をとりたてて異性だと思っていないからこそのものだったかもしれないけれど。
 伊勢次は、いつもどおり照れたような笑みを浮かべた。
「こんな遅くに悪りィなと思ったんだけど、どうにもお彩ちゃんのことが気になってさ。それに、今の仕事先のご隠居から饅頭を貰ったから―。ほら、お彩ちゃんは甘い物が好きだっただろ」
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