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第9章 第四話　【ほたる草】　一

　そんな時、お彩が表の「至急、女中求む」の貼り紙を見て店に飛び込んだのである（下手な仮名文字しか書けない喜六郎は、近所の筆屋の婆さんにこれを書いて貰ったらしい。随分と達筆だった）。小巻は色にたとえれば、艶やかな紅のような女で、派手やかな美貌がどこにいても人目に立つような佳人であった。気性も外見にふさわしく、勝ち気で怖い者知らずというのか、とにかく気随気儘でおよそ他人のことなぞ気にかける質ではない。
　これは喜六郎や早くに亡くなったその女房が二人して一人娘の小巻を甘やかし放題にして育てたことに大きな原因がある。そんな小巻も大和屋の若旦那偉兵衛に見初められ、四年前に嫁ぎ、去年の秋に懐妊が判明、今年の春には早々と八月(やつき)で出産に備えて里帰りしていた。
　小巻は五月半ばに無事男児を出産したが、それまではお彩は小巻の気紛れにさんざん悩まされてきたのだ。