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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第12章 第五話 【夏霧】  其の壱
 その数日後の朝、お彩は店の前で水撒きをしていた。八月の初旬はまだまだ暑い盛りである。その日も早くから太陽がじりじりとすべてのもの灼くように容赦なく照りつけ、道ゆく人々も皆うんざりとした表情で歩いていた。
 店を開けてからまず一番にする仕事といえば、夏場はこの水撒きと相場が決まっている。これは、「花がすみ」にわざわざ足を運んで下さるお馴染みさんに少しでも涼を感じて貰うためでもあった。
 お彩が手桶から掬い上げた水を思い切り撒いたときのことである。キャッと小さな悲鳴が上がった。
 お彩が愕いて声のした方を見やると、おきみが立っている。先日と同じ水色襦子の着物の裾に染みがひろがっていた。
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