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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第12章 第五話 【夏霧】  其の壱
「見てのとおりのあの器量だ。わしはひとめであの女に夢中になった。むろん、だからと言って、意気地のねえわしのことだ、主人面をして言い寄ったりしたわけじゃねえ。そうさな、勤めて始めて三月ほど経った頃のことだったか、ある日突然、好きだと言われて、それこそ天にも昇る心地になったもんだ。何より仰天したさ、あんな別嬪がわしのような醜男に惚れるなんざぁ、何かの間違えか、それとも他に下心があってのことだと思った。それでも、心のどこかで良い気になってたのも事実だよ。こんなわしでも、その気になれば、おきみのような良い女が寄ってくるんだと有頂天だったっけ」
 喜六郎は淡々と続ける。それでも喜六郎は、おきみの想いに対して、はきとした態度は取らなかった。その中には、やはり、おきみほどの女が自分のような男にまともに惚れるばすがないと踏んだからだ。
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