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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第12章 第五話 【夏霧】  其の壱
「わしは、おきみに心底惚れていた。あいつとのことも真剣に考えていたんだ。いつまでもこんな関係じゃならねえと思ったから、所帯を持って世間さまにも晴れて顔向けできる夫婦として暮らそうと近い中にはおきみに言うつもりだった」
 喜六郎は低い声で言った。
「だが、あいつは店の有り金と共に雲隠れしちまったんだ。わしもつくづく馬鹿な男だよ、お彩ちゃん。おきみのような良い女がわしのような男にまともに惚れるはずもねえってことを十分に承知していながら、いっときの夢が本物だと信じてえと願ったんだ。それがこの体たらくさ」
 その声には抑えがたい怒りが滲んでいる。それも道理であった。心から信じていた女に裏切られたやるせなさに喜六郎の心はどれだけ傷ついたことだろう。そのときの心中を考えると、お彩はいたたまれなかった。
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