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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第12章 第五話 【夏霧】  其の壱
 しかし、喜六郎は何も言わない。お彩は自らを励まして、ひと息に言った。
「旦那さん、私には、おきみさんが嘘八百を並べ立てて平気の平左でいられるようなお人には、どうにも見えないんです。確かに、おきみさんのなすったことは人して許されることではないし、旦那さんのお腹立ちもよく判ります。でも、旦那さんを見るときの、おきみさんの哀しそうな眼を見ていると、どうにも放っておけなくて」
「―」
 喜六郎は無言でお彩の言葉を聞いていた。その両の拳が小刻みに震えているのに気付き、お彩はハッとした。
「申し訳ありません。出過ぎたことを言いまた」
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