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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第12章 第五話 【夏霧】  其の壱
 お彩は深々と一礼すると、逃げるように店の方に戻った。お彩がいなくなっても、喜む六郎はまだその場に凝然として立ち尽くしていた。
 お彩もまた暗澹とした想いに駆られていた。自分のしたことは、やはり要らぬお節介だったのかもしれない。かえって、喜六郎の昔の古傷をえぐり出すようなことをして、この心をかき乱してしまっただけだ。自己嫌悪に陥るお彩の耳を威勢の良い声が打った。
「よう、相変わらず暑いねえ」
 顔を上げると、職人ふうの若い男が笑顔で立っている。あまり馴染みのある顔ではなかったが、今日の夕飯刻の一番乗りの客のようであった。
「いらっしゃいまし」
 お彩は精一杯の笑顔をこしらえて、元気な声を出した。
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