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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第14章 第六話 【春の雨】  其の壱
 伊勢次がそんな男ではないことを、お彩は知っている。お彩自身、陽太の深い瞳の底に揺れる壮絶なまでの孤独に気付いていないわけではない。いや、お彩が陽太に強く魅せられたのも、もしかしたら、その翳りゆえかもしれない。
 漆黒の夜を思わせるような底知れぬ瞳の奧で揺れる感情―、一体、陽太をああまで淋しげに見せているのは何なのか、その因を知りたいと思う。思えば、お彩は陽太について何も知らない。陽太という名でさえ、真の名ではないと男自身が語った。もっともっと陽太について知りたいと思わずにはおれない。
 加えて、陽太が亡き母お絹と何らかの拘わりがあったという事実もお彩の心を妖しくざわめかせる。一体、母と陽太の間にいかなる拘わりがかつて存在したのかを知りたいと思う自分と、一方で知りたくないと思う自分がいる。
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