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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第15章 第六話 【春の雨】 其の弐
伊勢次の真摯な求愛を拒絶してまで、自分が欲していたのが、この苛酷な現実なのだ。誠実で働き者の男の妻となり、可愛い子どもを生み育て、貧しいけれど穏やかな日々の幸せ―伊勢次と所帯を持てば、そんなさやかな幸福を絵に描いたような日々が待っていたに相違ない。その平凡な幸せを捨て、選び取ったのは、夢のように気紛れに訪れる、たった一瞬のめくるめくようなときめきと歓びだった。たとえ心底から欲しているものだとはいえ、それはあまりに儚い「夢」だった。
それでも。
お彩は何度同じ場面に遭遇したとしても手、同じ道を選んだに相違ない。伊勢次の手を取れば幸せになれると判りきっていながら、その手を振りきって、自ら茨の―あるいは破滅へと通ずる道に脚を踏み入れようとしただろう。
それでも。
お彩は何度同じ場面に遭遇したとしても手、同じ道を選んだに相違ない。伊勢次の手を取れば幸せになれると判りきっていながら、その手を振りきって、自ら茨の―あるいは破滅へと通ずる道に脚を踏み入れようとしただろう。