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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第15章 第六話 【春の雨】  其の弐
 あんな男に、女は強く魅了されるものなのだろう。これが他の女ならば、伊勢次は放っておくのだが、相手がお彩であるだけに尚更見過ごしにはできない。美しき死に神に魅入られた女の末路は知れている。骨まで喰らい尽くされ、身も心もぼろぼろになって捨てられるだけだ。
 いや、と伊勢次は思わずにはおられない。
 百歩譲って、あの男がお彩の言うように、根っからの悪人ではない、女を食い物にしたり騙したりする男ではなかったとしても。
 無意識の中に女を泣かせ苦しませ、挙げ句、救いようのない地獄へ突き落とすことは、まあることだ。美しく危険な香りのする男、おまけに全身から暗い翳のようなものがゆらゆらと立ち上っている―。伊勢次には、それが見えた。あんな男には利口な女は近づかないに決まっている。
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