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第15章 第六話　【春の雨】　　其の弐

　人の縁(えにし)とは、げに摩訶不思議なものだ。最初は結ばれるはずの運命(さだめ)にある二人だとしても、いつどんなときに障害が立ちはだかり、別れることになるやもしれない。そんな薄い縁ならば、やはり端からその二人は縁がなかったのだと―、そんな言い方もできるだろう。しかし、喜六郎はそうは思えなかった。
　もし、何らかの問題が起こった時、それを仲立ちして取り除いてやる者―人はそれをしばしば「時の氏神」と呼ぶが―存在すれば、その二人は別れなくても済むかもしれない。元の運命どおりに晴れて結ばれることができるかもしれない。ならば、喜六郎は、お彩と伊勢次の二人にとって、時の氏神になってやっても良いと考えている。