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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第15章 第六話 【春の雨】  其の弐
 しがない一膳飯屋ゆえ、それはそれでも良いが、もし、お彩が喜六郎の娘となり、この店の暖簾 暖簾というほどの店ではないことは十分判っている を継いでくれるなら、こんなに嬉しいことはない。伊勢次は腕の良い左官だし、今更、板前修業をして欲しいと望むのは土台無理だろうが、お彩の料理の腕は確かだ。これは店が多忙な時、喜六郎が実際に板場で手伝わせて見ているので、よく知っている。ゆえに、養女となったお彩を喜六郎が一人前の料理人に仕込めば、「花がすみ」を続けてゆくのも夢ではないだろう。
 その上で、伊勢次がお彩の婿になってくれたら。小巻を嫁がせたときは、いずれこの店は己れ一代で閉めるのだと、諦めた夢も叶うかもしれないのだ。もちろん、この話は慎重に進める必要がある。
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