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第15章 第六話　【春の雨】　　其の弐

　陽太が冷淡に思えるほど素っ気ない声で言い、襟を掴んだ陽太の手を振り払った。
「フン、どこまでも気障な野郎だな。色男ぶりやがって。お前のような男が女を食い物にするのを、俺は今まで嫌になるほど見てきたんだ」
　陽太がいきりたつ。が、陽太の方は憎らしいほど落ち着いていた。伊勢次はそれが余計に癪に障るようだ。陽太が沈着であればあるほど、伊勢次は激するようだった。
「私が女を食い物にする類の男だと？」
　陽太は冷たい声で言うと、陽太を直視した。それは、お彩ですらゾッとさせるほどに冷たい声で、およそ何の感情もこもってはいなかった。つい先刻、伊勢次が現れるまでの彼とは別の男を見ているようだ。
「おお、そうだとも。俺は惚れた女がみすみす不幸になるのを黙って見ちゃあいられねえんだよ」
　伊勢次は声高に言うと、陽太を憎々しげにねめつけた。