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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第22章 第九話 【夫婦鳥~めおとどり~】  其の壱 
 果たして、この賭が吉と出るか凶と出るかは判らない。だが、賽はもう投げられたのだ。
 お彩はただ静かに刻(とき)の来るのを待つだけであった。
―おとっつぁん、私に勇気をちょうだい。
 お彩は心の中の父に静かに祈った。

 その日の昼過ぎになった。
 約束の八ツにお彩は町外れの随明寺まで出向いた。随明寺は「花がすみ」からも遠くはない。お彩は昨日、父の野辺送りを終えたばかりの身だ。流石に今日一日は休みを貰っていたし、喜六郎もまた快く許してくれた。
 随明寺は今、紅葉が盛りであった。春には桜花の名所として上野の寛永寺などと共に知られるが、秋にはまた紅葉の名所としても広く親しまれている。もっとも、紅葉の時期は春とは異なり、訪れる人はまばらで広い境内はしんと静まり返っていた。
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