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第23章 第十話　【宵の花】　　其の壱

　市兵衛は普段から商いで多忙を極めていた。日中も家にいることより外出している方が多い。当然ながら、夜は夜で同業仲間との寄合と称しての外出がしょっ中で、そんな夜はたいてい帰りは深夜を回るか暁方近くになる。同じ呉服問屋たちとの談合が行われるのは料亭などで、その後は気のあった者同士で吉原などの遊廓に流れることが多いと聞く。
　お彩も並の女ゆえ、良人が吉原へゆくと聞けば、全く平気というわけではいられない。何しろ歌舞伎役者ぶりの美男である市兵衛の名は吉原界隈でも知れ渡っており、本まがきの大見世の花形花魁が市兵衛に指名されたがっているとかいう噂まで流れているほどなのだから。