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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第23章 第十話 【宵の花】  其の壱
 いや、市兵衛の態度そのものは所帯を持つ前と何一つ変わらない。表面は優しく、全く変わりないように思えるのだが、お彩は良人と自分の間にまるで眼に見えない薄い膜があるようなもどかしさを感じていた。一つ屋根の下に暮らしてみて初めて、お彩は市兵衛が「氷の男」だと呼ばれていることに納得がいった。それは何も市兵衛がひとたび商いのこととなると、別人のように情け容赦なくなるからというだけではない。
 いかにも商人らしい穏やかな話しぶり、誰にでもやわらかな態度で接する市兵衛だが、どんなに愛想よく笑っていても、眼だけはけして笑っていないのだ。物柔らかな雰囲気の中に、そこはかとないよそよそしさが混じっている。
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