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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第23章 第十話 【宵の花】  其の壱
 おまけに、若いながらも市兵衛は凄腕と評され、先代の代より更に身代を大きくしたのは誰もが認めるところだ。ゆえに、市兵衛のこの独断を止めることができる者はいなかった。
 若菜太夫の部屋での市兵衛の時間の過ごし方は決まっている。たいていは酒を手酌で呑みながら、静かに過ごすのだ。たまに気が向いたときは若菜太夫に酌をさせることもあるが、殆どは市兵衛は自分で注いで呑む。酒を呑んだ後は、隣室に敷いてある夜具にゴロリと仰向けになって眠ってしまう。若菜太夫はそんな市兵衛の無防備な寝顔をうっとりと眺めるのをひそかな愉しみにしていた。
 やり手と同業者たちから畏怖される男がこの若菜太夫の前では、まるで幼子のような無防備な顔を見せるのだ。
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