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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第24章 第十話 【宵の花】 其の弐
両親は甚平店という粗末な長屋住まいの身であったが、陽太とお市の結婚を引き替えに、この二親のために表店に家を建て、生涯不自由のない生活を保障する―つまり、陽太の両親の生活の面倒を京屋がすべて見ると申し出たのだ。
その反対に、陽太がこの申し出を断れば、両親は甚平店に住めなくなるどころか、細々と鋳掛け屋を営んでいた父親の商いさえできなくしてやると市兵衛は脅した。
親思いの息子はその誘惑には勝てなかった。だが、金と権力をちらつかされ、無理に娶された女房をどうしても陽太は心から愛せなかった。また、お市との結婚に際し、惚れた女を諦めざるを得なかったのも二人の結婚生活に大きな翳を落とした因の一つであったといえよう。お市と所帯を持ってから後も、陽太はこの初恋の女の面影をずっと引きずっていて、忘れることはできなかった。
その反対に、陽太がこの申し出を断れば、両親は甚平店に住めなくなるどころか、細々と鋳掛け屋を営んでいた父親の商いさえできなくしてやると市兵衛は脅した。
親思いの息子はその誘惑には勝てなかった。だが、金と権力をちらつかされ、無理に娶された女房をどうしても陽太は心から愛せなかった。また、お市との結婚に際し、惚れた女を諦めざるを得なかったのも二人の結婚生活に大きな翳を落とした因の一つであったといえよう。お市と所帯を持ってから後も、陽太はこの初恋の女の面影をずっと引きずっていて、忘れることはできなかった。