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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第24章 第十話 【宵の花】  其の弐
 お市も亡くなる頃には、錯乱状態にあったのだろう。
―お前さんは人殺しよ。人の心を平気で操り弄ぶ鬼よ。私と清五郎のことを半年も前から知りながら、ずっとその間何喰わぬ顔をして復讐の機会を窺っていたなんて―、鬼、人でなし。お前さんが清五郎を殺したのよ。
 そう叫ぶお市の声を当時、京屋にいた大勢の使用人が現実に聞いている。むろん、おみよも聞いていた一人であった。
 そして、泣き叫ぶお市を見つめる市兵衛―陽太の顔は能面のように静まり返っていて、その眼は愕くほど醒めていた。二人のそのやり取りは多くの奉公人が見ていた。そんなやり取りのあった夜、お市は自害して果てたのだ。
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