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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第24章 第十話 【宵の花】  其の弐
私がこのお店に来た時、旦那様はまだ十三におなりになったばかり、年下の丁稚を弟のように可愛がる優しい方だったのです」
 おみよの眼は、はるか遠い昔を見ているかのように遠かった。
 お彩は今、漸く一つの謎が解けたような気がしていた。陽太、いや、市兵衛のあの瞳の奧に揺れる壮絶なまでの孤独には、お彩が想像もしていなかった過去が拘わっていた。
 恐らく、お市や清五郎を死なせてしまったことが陽太の心の枷となって、長らく彼を責め苛んできたのだろう。
 お彩の記憶の底から突如として一つの光景が浮かび上がってきた。
 あれは二年前の、やはり桜が咲く時季だった。市兵衛と左官の伊勢次がお彩をめぐって、随明寺で殴り合いをしたことがあった。
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