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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第24章 第十話 【宵の花】  其の弐
 あのときの市兵衛を見て、お彩は本当に怖いと思ったものだ。もしかしたら、と、今になって思わずにはおれない。伊勢次が最初から市兵衛に対して感じていた嫌悪感や危機感は、市兵衛の中の孤独ではなく、この隠れた冷酷非情さに対するものだったのかもしれない。
―お彩ちゃん、あの男だけは止すんだ。あの男は、いつかお彩ちゃんを不幸のどん底に突き落とすに決まっている。
 懸命に叫んでいた伊勢次の哀しげな表情が、今も心から離れない。
 お彩は、ゆるりと立ち上がると、縁側に面した障子を開けた。縁側に出て庭の桜を眺めた。
 どこまでもひろがる蒼い空を背景に、くっきりとそびえ立つ樹を眩しげに見つめる。昨夜見た桜と同じものとは思えないほど、昼間の桜はまるで雰囲気が違う。
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