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第4章 第二話【花影】－其の壱－

　およそ畜生と呼ばれる獣ですら己れの身体を流れるのと同じ血を持つ親を異性として愛することはない。なのに、よりにもよって、お彩は自分をこの世に送り出してくれた父を愛してしまった。母が亡くなってから気付いたその想いは日毎にお彩の中で大きく膨らんでゆき、お彩はその重さに押し潰されそうになった。そしてある日突然、父と同じ空間にいることの息苦しさから解放されたくなって、逃げるように甚平店を出たのだ。
　甚平店からほど近い、やはり似たような裏店を借り、直に近くの一膳飯屋「花がすみ」の仲居の仕事を見つけた。しかし、お彩の目論見は外れた。父から遠ざかることによって父への思慕を抑えようとしたのに、逆に逢わないでいる時間が長くなるほどに、鬱積した想いは増してゆく。