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第26章 第十一話　【螢ヶ原】　　其の弐　

　かつてお彩は市兵衛の孤独を癒し、その心の闇に光をもたらしたいと願っていたけれど、原因も判らぬその心の闇から、お彩は市兵衛を救うことなどできるはずもない。
　お彩にも、最早、市兵衛が何を考え、望んでいるのか計り知れないでいる。その事実に気付いた時、お彩は、既に自分が市兵衛という男の傍にいることに意味はないと悟った。
　そのことは市兵衛に惚れているとか、愛しているとかいう感情とはまた、別の話だ。だからこそ、お彩は京屋を去った。
　最初の中は、ただ市兵衛の底知れなさに怯えて逃げ出しただけだと自分でも思い込んでいたけれど、伊勢次の家で暮らすようになって数日が過ぎ、少しはあのときよりも落ち着いて自分を取り巻く状況について考えられるようになった。