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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第28章 第十一話 【螢ヶ原】  其の四 
「さ、少しでも良いから、食べろ」
 伊勢次はもうすっかり打ち解けた口調で蜜色の実を一つつまんで、お彩に差し出してよこす。
 優しいひとだと、お彩は思った。
 伊勢次は、こんなにもひたむきにこれから生まれてこようとしている赤ン坊のための父親になろうとしている。
 相も変わらず食欲はなかったけれど、伊勢次の心を思えば、ほんのひと口なりとも食べるべきだ。そう思って、何の気なしに手を差し伸べた。伊勢次の無造作に差し出した枇杷の実を受け取ろうとしたまさにその時、ほんの一瞬、お彩の手と伊勢次の手が触れた。
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