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ブルジョアの愛人
第12章 初夏の蕾

週末泊まりに来ないかと真緒に誘われたのは木曜日である。父親が福岡に出張で、一週間は帰ってこないのだという。優々は嬉しさのあまり、授業中だというのに大声を出して先生に叱られた。

優々の母もお泊まりに渋る様子はなく、優々に仲の良い友達ができたことが嬉しいようだった。そうして金曜日は二人ともクラブを休み、優々は一旦家へ戻って大きなボストンバッグを抱えて真緒の家へ走った。バッグは優々の期待で膨らんでいるようだった。

「ねえねえ優々ちゃん」

夕食後、小学生にしては少し殺風景な真緒の部屋に入るなり真緒は声をひそめた。

「こないだ聞きそびれちゃったけど、優々ちゃんの好きな人って、陽平じゃなくて誰なの?」

優々はびっくりして真緒を見つめ返した。いつもの澄ました顔とはうってかわり、恋バナ大好きな女の子の表情である。きらきら輝く瞳から目を逸らし、優々は必死に誤魔化す方法を考えた。

「秘密だもん」

「えーっ、じゃあ同クラの子?」

優々は少し迷ったように頷く。

「どんな子なの?」

同じクラスとヒントを与えたのだから、特徴を言ってしまえばすぐに分かるだろう。しかし真緒は、優々の想い人が自分であることはおろか女子だなんて考えてもみないはずだ。

それもそうだろう。テレビやフィクションの世界でしか聞いたことのないセクシャルマイノリティの人間が身近に、しかも親友がそうだなんて、誰が考えるだろうか。
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